第2章 逢魔が時
私は彼と少し距離をとり、その青年を改めて見つめる。
暴漢だったら最悪だ…。
いや、月明かりを頼りにその青年をよく見ると、
彼は赤く、猫のように縦に割れた瞳孔をもっていた。
そして薄笑いをかたどっている唇の中に覗くのは
2本の鋭い歯。
違う…あれは歯というより牙だ…
加えて、何か左腕に抱えていると思っていたものは……
人間の小さな頭部だった。
刹那、私は "人ならざる者" に合ってしまったのだと理解した。
「ひと…ごろ、し……」
足がすくむ。
しかし、そう思っているのは私の理性だけだった。
私の拳は…
腕は…
足は…
全身の細胞が、目の前の青年に対する憎悪に憑りつかれ
今にも抹殺したいという感情に支配されようとしているのだ。
…と、頭で現状を整理できた時には
私は彼に殴りかかっていた。
拳は彼に………届かなかった。
直前で右手で制されてしまった。
しかし私は左足を思いきり振り上げ、
私の拳を止めていた彼の右腕、肩下から先を蹴りちぎった。
私はその勢いと同時にまた距離をとる。
「おいおい…痛ってえな……ひどいことしてくれるねぇ嬢ちゃん」
腕をちぎっても平然としているその青年に、私は心底驚愕した。
また、そのしゃべり方にも違和感を感じた。
彼は青年の風貌をしているのに、なんだか中年のおじさんのような言葉を使うからだ。
「あなたは…何者…?その手にもっている子は、あなたが殺したの…?」
我ながら野暮な質問だと思った。