第12章 寡黙な人
「あっあとね…これもどうかしら…」
蜜璃ちゃんが次に持ってきてくれたのは、
つばの大きな、白い帽子だった。
「番傘も素敵だけど、このワンピースを着る時は、こっちの帽子の方がもっとちゃんをかわいくみせてくれると思うのっ!」
まるで恋文を渡すかのような勢いで帽子を差し出してくれた彼女が愛しくて、最終的にワンピースと帽子、両方購入することにした。
ふたりのおかげで満足すぎるお買い物ができ、
改めてお礼を伝えながら私たちはお店を後にした。
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しばらく辺りを散策して、少し歩き疲れた私たちは
休憩がてらまたお喋りに興じようとカフェーに入ろうとしていた。
お店のドアノブに手を掛けた時、後ろからしのぶちゃんの声がした。
「あらっ?あの羽織はもしかして…」
「!冨岡さんじゃない?冨岡さ~ん!」
振り返ると、道向こうにこちらに顔を向ける男性がいた。
(ふたりの知り合いかしら…)
隊服を着ているから、鬼殺隊の隊士なのだろう。
蜜璃ちゃんが大きく手を振っていると、その人はこちらにやってきた。
「珍しいですね、そちらから近づいて来てくれるなんて」
しのぶちゃんが揶揄う。ずいぶん親しげだ。
「冨岡さん、お出かけですか?」
「あぁ。昼飯を食べに来た。」
…なんだか、クールで淡々とした人……
そんなことを考えながら、ぼーっと彼を見ていたら
目が合ってしまって
「ぁっ、」
咄嗟に目を逸らしてしまった。
「あっ、えと、ちゃん、この人は水柱の冨岡さんよ。」
私の緊張を察してくれたのか、蜜璃ちゃんが紹介をしてくれた。
「会うのは初めてですか?」
「うん、はじめまして、炎柱の下で継子をしているといいます。」
しのぶちゃんに返事をしてから、挨拶をした。
向こうも私のことを知らないと思っていたけれど…
「…煉獄からよく話を聞いている。」
「……」
「…もうっ会話の着地点がよくわからないことになってしまいましたね」
じっと、冨岡さんの深い紺色の瞳に見つめられ、言葉に詰まってしまった私に、しのぶちゃんが助け舟を出してくれた。
二、三言交わした後、"俺は行くとする"と言葉を残した冨岡さんは
また通りの人の波に戻っていった。