第12章 寡黙な人
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「こっちはどうかしら…ん~でもっ」
「向こうのワンピース、持ってきますね」
…私はさっきから、可愛いふたりが選んでくれた、可愛いお洋服を片っ端から試着している。
さながら着せ替え人形のようだ。
次々と渡される色とりどりの洋服は、どれも本当に素敵で
それを着ている自分を鏡で見るたび心が跳ねた。
「ふたりとも、たくさんありがとう。でもどれも可愛すぎて選べないわ。それに、ふたりも自分の好きなお洋服みて?」
私の洋服選びに思った以上に時間をかけてくれているふたり。いよいよ申し訳なくなってきてしまい声をかけたが、
「わたしたちの楽しみでもあるので、もう少し付き合ってください」
「自分のも一緒にみているから気にしないでっ」
なんて言ってくれる。
"ありがとう"と、小さな声でお礼を言ってから、私はまた試着室の戸を閉めた。
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コンコンとノックの音と「さん」というしのぶちゃんの声が聞こえたので戸を開けると、
珍しい紺碧のワンピースを手にしたふたりがいた。
「ちゃん、今度はこれ着てみてくれるかしらっ」
せり立てるように蜜璃ちゃんにそう言われ、それを受け取り着替えた。
再度戸を開けると、待ち構えていたように目をキラキラさせたふたりがいた。
「やっぱり!しのぶちゃんが言ったとおりね!」
「さん、そのワンピースすごく良く似合ってます!」
頬を赤らめる蜜璃ちゃんと、にっこり笑うしのぶちゃん。
私ははやる気持ちを抑え、転ばないように試着室からでて大きな鏡の前に進む。
「わぁ…」
"心がときめいた"とは、こんな気持ちを言うのだろう。
その紺碧のワンピースは、私の黒髪と肌をより美しく魅せていた。
紺碧は赤みも含んでいるので、瞳の色ともばっちり合っている。
「これ、わたしこのワンピースがいいわ!」
鏡越しにふたりと目を合わせてから振り返る。
ふたりとも満足げに微笑んでいた。