第11章 仲間
「きれい…」
が"井澤屋"という店の前で足を止めた。
「帯留めか?美しいな」
「みて、杏寿郎さん。この帯留めについてる宝石、杏寿郎さんの瞳みたい!」
が帯留めをひとつつまんで、俺の目の前に掲げた。
金属のきらめきが彼女の瞳にうつり、俺は目を細めた。
それは菊の透かしの帯留めだった。
ふたつの菊がわずかに重なっていて、それぞれの中央に緋色と橙色の宝石がはめてある。
「これ、欲しいわ、いくらかしら…」
「気に入ったのか?」
「うん、とっても!」
しかし値段を確認した彼女の顔は曇り、菊の帯留めを静かに元あった場所に戻した。
「どうした?」
「…杏寿郎さん、いつか私が十二鬼月を倒したら、またこのお店に連れてきてくれる?」
首をかしげてそう言う彼女。
「…」
そんな顔をされたら…
だめだった、俺は我慢できなかった。
俺でなくとも例えば不死川でも、この顔を見たら今すぐに帯留めを買ってやりたいと思うだろう。
「少し待っていてくれるか?」
そう言葉を残した俺は、帯留めを奥の店主の元にもっていき会計を済ませた。
呆気にとられている。
「えっ…いいの?」
店の外に出てその包みを渡すと、彼女は少し眉を下げて俺を見上げた。
「いいもなにも、にその帯留めが良く似合っていた。俺が、君にこれを身に着けてほしいと思ったから買ってしまったんだ」
「もらってくれないか?」
「嬉しい…ありがとう杏寿郎さん!」
帯留めが自分だけのものになったのが嬉しいようで、
は包みを握る手に力を込め、それを見つめてからまた俺を見上げた。
「わたし、これを杏寿郎さんだと思ってお守りにするわ」
そう言い、いたずらに笑う。
このくらいのことでこんなに喜んでくれるのなら、いくらでもしてやるのだがな…。
街灯に照らされた彼女の艶やかな頬。
その美しさに触れたくて、
手を伸ばしかけ、やめた。