第14章 二人きりの時間ー三日月宗近ー
ー三日月宗近ー
翌日、朝食を摂ってそのまま出発した。
早い方が神社仏閣は静かでいいだろう。
また、先々で祓うであろう月胡の負担も人が少ない方が軽い。
休暇に来たというのに…
まぁ、月胡らしい。
それに、ちゃんと息抜きが出来ているようだしな。
力を抜いて楽しんでいる姿に、安心する。
『宗近ー!』
「どうした?」
俺だけを見て、俺だけに話す。
この旅の間だけは、俺だけの月胡だ。
今回の旅には膝丸が選ばれると思っていた。
提案者だし、月胡が初めて鍛刀した刀剣だし、面倒見がいい。
が、月胡は俺を選んでくれた。
その事が、どれ程俺を喜ばせたか。
月胡は知らぬだろうな…
頭では、ちゃんと理解しているつもりだ。
月胡は前からいた俺たちも、自ら鍛刀した刀剣も、新たに契約した刀剣も、分け隔てなく大事にしてくれていると。
だが、感情とは厄介な物で。
月胡が鍛刀した、それも最初の髭切・膝丸に嫉妬している。
相性まで良くて、何もしなくても繋がっているなんて…
我ながら、愚かな感情を抱いていると思うが…
月胡に対してなら、それすら許せるのだから重症だな。
「ここは…。」
『名前に“月”が入っているお寺なの。
紫陽花が有名なんだけど、宗近と来たかったんだ。』
月胡…
これ以上、夢中にさせてくれるな。
誰にも渡せなくなってしまう…
いや、既に手遅れかも知れぬが。
完全に整備されたというよりは、自然に近い状態で。
妙に落ち着く場所だな。
「今度は紫陽花の季節に来てみたいな。」
『じゃ、来ようよ。
来年の紫陽花の時期に。』
「約束だぞ?」
『じゃ、指切り。』
先の約束ができる事が、こんなに嬉しいものとは知らなかった。
また、月胡を独占出来る。
めぼしい神社仏閣を巡り終え、月胡が行きたがったアクセサリーショップとやらへ行く。
本当に来たかったんだな。
目を輝かせて見ている。
狭い店内だが、こだわって作られた品々が並んでいる。
その中に、雪の結晶を模したピアスがあり…
何故か月胡と結びついた。
月胡はシンプルな指輪を買い、店を出たが…
「月胡、厠へ行ってくるから待っていてくれ。」
『わかった。』
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