第8章 おかえりといらっしゃい
翌日の午前中、約束通り太郎が報告に来てくれた。
『休日にしたのに、来てくれてありがとう。』
太郎「いえ、私の方こそ。
修行を認めて下さり、温かい迎えをありがとうございました。」
『…大変な旅でしたね。』
太郎「えぇ……。」
曖昧な自分のルーツを辿る事は、容易ではないだろう。
知りたくない事実かもしれない。
その恐怖や不安と向き合い、乗り越えて帰って来てくれたんだね。
太郎「正直、挫けてしまいそうな時もありました。
ですが…
そんな時、主からいただいたこの御守りが温かく包んでくれたのです。
何があっても、大丈夫だ。
何がなんでも、帰って来いと言ってくれているようで。」
『ふふ…
うん、そう念じたからね。』
太郎「主の為にと思い旅に出たのですが…
主に助けられた旅でした。」
太郎…
本当に、この方は……
『改めて、おかえりなさい。』
太郎「はい。
…主、もう一度誓わせてください。」
『ん?』
太郎が私の前に跪き、手をとる。
太郎「私・太郎太刀はこれより主である月胡の為だけの刀となり、月胡の為に生き、力を振るうと誓います。」
『ありがとうございます。
よろしくお願いしますね。』
私も、太郎の思いに応えるよ。
太郎の報告が終わると、薬研がやって来た。
薬研「たーいしょっ!」
『ご機嫌だね、薬研。』
薬研「いやぁ、一兄が来てくれたから俺の役割か減ってな。」
それ、嬉しいんだ。
『負担だった?』
薬研「いや、そう言う訳じゃなくて。
責任が分割されたって言えば良いのかな。
好きな研究の時間が増えたのが嬉しくてな。」
そう言う事か。
『一期が来て、嬉しいんでしょ?
甘えられるものね。』
薬研「…否定はしない。」
おや、素直だ。
『一人でここに来てくれるのも、珍しいもんね。』
薬研「…俺だって、大将に甘えたい。」
おーっと、キュンときたぞ。
『どうぞ?』
薬研「いいのか?
じゃ、膝枕してくれっ!」
『いいよ。』
薬研のプライドの為に、結界も張っとこう。
弟達に見られたくないよね。
『いつもありがとう、薬研。』
髪を撫でてやると、呼吸が静かな寝息に変わった。
うん、ゆっくり休んでね。
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