第6章 日常
ー三日月宗近ー
「月胡、これなんだが。」
『zzz…』
おやおや、珍しい。
月胡が居眠りしている。
昨夜、遅くまで部屋の明かりが付いていたからなぁ。
もしかすると、寝ていないのかもしれぬ。
どれ、何か掛けてやるか。
ソファーに置いてある膝掛けを掛けてやる。
「頑張り過ぎだぞ、月胡。」
そこが良い所でもあるのだが。
身体を壊しては、元も子もない。
今、少し休んでも月胡ならすぐに取り戻せるしな。
光忠「主ー…おや。」
「燭台切か。どうした?」
光忠「いや、買い物へ行って来ようと思ってね。
それにしても、珍しいな。
主が居眠りなんて。」
「大方、太郎の事が気になって眠れなかったのだろう。」
光忠「だね。
じゃ、僕は行ってくるから。」
「わかった、伝えておく。」
まったく…
俺の事も、それくらい考えて欲しいものだ。
すやすやと眠る月胡の頬を軽く突く。
「人の気も知らずに…
罪づくりな奴だ。」
そう…
想いの強さは違えども、みなに大切に想われている。
今回の太郎太刀の修行だって、月胡を護る為に更なる力を求めての事。
月胡が倒れた時…
何に変えても、失いたくないと思った。
話を聞いた時は、翡翠といったか?
あの男を本当に斬ろうとも思った。
我らを試す為に月胡を利用し…
月胡を抱いた、それも初めての男だなんて。
憎いという思いと同じくらい、羨ましく思ったんだ…
「月胡…」
髪を一房すくい、口付ける。
「俺を選べ、月胡。」
『んっ…あれ?』
「おはよう、月胡。」
『あっ…寝ちゃってた。』
寝起きの少し掠れた声が、愛おしい。
「なに、ほんの小一時間だ。」
『ごめん、仕事中に。』
「いいさ、少しくらい。
昨夜は眠れなかったのか?」
『それもあるんだけど…これ、宗近に。』
これは…
「太郎太刀に渡していた…。」
『御守り。
みんなにも作ったの。
いくつか作ったら終わるつもりが、朝になっちゃって。』
渡された御守りからは、月胡の想いが伝わってきた。
温かい…
「ありがとう、大切にする。」
月胡よ…
いつか、俺を選べ。
俺だけの月胡に、なってくれ。
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