第1章 ようこそ、主さま
ー三日月宗近ー
翁の初七日が済み刀剣達も落ち着いた頃、後任として来た審神者はうら若き乙女だった。
随分とあっさりした顔見せに、刀剣達は呆気にとられていたが…
「ふむ。ではまずこのじじいが行ってくるか。その後、お前達を呼びに行く。ではな。」
ざわつく広間に一声かけ、審神者を追う。
ー宗近、彼女を頼んだよー
いよいよという時、翁に呼び出されて言われた事。
人はいいが、冷静に物事を判断する彼にそこまで言わせた彼女の事も気になる。
翁に似た、清らかな気を纏っていたな。
力もずいぶんと強そうだ。
だが、さすがの俺でもあの一瞬で人となりまでは分からぬ。
執務室のドアの前に立ち、ノックすると
『どうぞ。』
と返事をした。
ふむ、穏やかな声をしているな。
「失礼する。」
『どうぞ、こちらに。』
と、応接テーブルのソファーへ案内された。
まるで、俺が来る事が分かっていたように。
このテーブル類は全て前のままじゃないか。
てっきり、新しくされるのかと思っていたが…
『変わりなくて驚きましたか?』
心を読まれたのかと思うタイミングで言われ、ドキリとした。
この俺が、だ。
『とても居心地が良くて、そのまま使わせてもらっています。』
と、優しい笑みを浮かべて言う姿に“あぁ、本心で言っているのだ“と伝わってきた。
『どうぞ。』
「いや、かたじけない。主に茶を出させるとは」
『私がしたいから、やっただけです。』
その応答にも、好感が持てた。
この娘は信頼するに値する、と。
『三日月宗近。』
「なんだ?」
『あたなは翁の近侍でしたね。』
「あぁ。だが、主は好きな者を近侍に…」
『いえ。是非、あなたにお願いしたいのです。』
「ほう…それは、何故?」
主命とあらば逆らえぬのに、“お願い”と来たか。
『翁の近侍として勤めていたあなただから、です。
あなたに私を助けて頂きたいのです。』
「ほう。」
『そして…』
「そして?」
『私が道を違えた時には、叱っていただきたい。』
刀剣に叱って欲しい、だと?
審神者と刀剣は主従関係だ。
従者が主を叱るなど…
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