第37章 契りー髭切ー※
ー髭切ー
月胡の隣に立つ為には、己を知らなければならない。
もっと、強くなければ。
「…本当は、すぐにでも抱きたかった。」
けれど、抱いてしまったら僕は月胡から離れられなくなる。
中途半端なままで。
「それは、誰より僕が許せないから。」
どんな事だろうと、乗り越えてみせる。
初めて月胡に会ったのは、暗くて埃の積もった蔵の中だった。
使われることもなく、飾られることもなく。
ただ、置かれていた。
でも、今なら分かる。
理由があってあの蔵に置かれていたんだと。
…置き方に言いたい事はあるけど。
『…綺麗な刀。』
柔らかく暖かい手が触れ、清らかな霊力が流れ込んできて意識を持った時に聞こえた声。
それが、月胡だった。
まだ、審神者として未熟だった当時の彼女は顕現する事は出来なかったけど僕達に意識と自我を与えてくれたんだ。
そして、彼女同様に遡行軍から守る為に…
さらに彼女の霊力で隠す為に同じ空間に置かれたんだ。
月胡は僕達の為に蔵を整えてくれた。
そして…
僕達の所へ泣きに来ていた…
ずっと、その涙を拭ってあげたかった。
この腕で抱き締めて、めいっぱい甘やかしてあげたかった。
でも、いきなり彼女は消えた…
翡翠「月胡に君達の保護を頼まれた。」
その後、翡翠殿に政府へと連れていかれたが彼は力が強かったからこちらの意志を伝える事が出来た。
ー彼女の元へ連れて行けー
翡翠「もう少し待て。月胡が審神者になったら連れて行く。」
審神者が何かわからなかったが、この人間は信用するに値すると思えた。
悔しいけど、霊力が月胡と似ていたから。
彼を信じてどれくらい待ったかな。
懐かしい霊力を感じたら、強い光に包まれて目を覚ますと会いたいと焦がれた月胡。
なのに、名乗ってはいけない。
縁が切れてしまうから…
でも、刀の身では出来なかったが、今なら出来んだ。
君がしてくれた事を、僕がしてあげる。
それだけじゃない。
君が僕を選んでくれた。
刀としてだけでなく、番いとしても。
「もう少しだよ。」
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