第35章 かけがえのない日々の中で
ソファーに座り、コーヒーカップを両手で包み込む。
温かくていい香り…
香りを楽しんでからひと口飲むと、程よい苦味。
そして、優しい味がした。
伽羅の気持ちが伝わってくる。
それに、格段に美味しくなってる。
何度も練習して丁寧に淹れてくれたんだね…
伽羅らしい気遣いに、また胸が熱くなる。
本当に、この本丸は愛で溢れているなぁ。
お風呂にお湯が溜まったので、入浴剤を入れて浸かる。
はー…
落ち着く…
手足を伸ばし、ゆっくり温まる。
ちゃんと、自分の身体だ。
狭間では感覚がなかったから、こんな風に気持ち良いとか食事の味がして実感できた。
本当に不思議な空間だったなぁ…
お風呂から上がり、ジャージを着る。
少し身体に触れるものが着たかった。
実感したいんだなぁ。
翡翠「月胡、いいか?」
『はい、どうぞ。』
お風呂から上がったタイミングで、翡翠が訪ねてきた。
翡翠「ジャージか。久しぶりだな。」
『そうだね。なんか、今日はこれが落ち着く。』
翡翠「そうか。
…あのさ、お前帰ってきたら決断するって言ってたよな。」
『うん…でも、休暇から帰ってきてからにしようと思う。』
二つの考えがあると思う。
結果を聞いてから、行くか。
休暇が明けるまでは何も考えないか。
私は今回、後者にした。
心配かけて、やっと帰ってきて安心したら次は主の縁結びだなんて休まらないだろう。
翡翠「俺もそれが良いと思う。
心配無用だったな。」
『相変わらず、心配症だね。』
翡翠「もう、性だな。
…相手は?」
『本人に伝えてから、ね。』
翡翠「伝えた時点で、わかる事だろうが。」
そうね。
相手の神気満たされ、神格化してしまうから。
『お楽しみにー。』
翡翠「…誰が惚れた相手の婚姻を楽しみに待つかよ。」
『…そうだよね。』
翡翠「…それ以上に、幸せを願ってはいるがな。」
『…知ってる。』
いつだって翡翠は私の幸せを願ってくれた。
親のように、兄のように。
私は甘えまくって、わがままを言い放題だった。
反抗はしなくなっても、きっと。
『これからも甘えまくるよ。』
翡翠「役得だ。」
翡翠との絆は、ずっと途切れる事はない。
いつまでも変わらない、大切な人。
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