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月の雫

第34章 続いてゆく道


ー三日月宗近ー

「今日は満月、か。」

月胡が居なくなってから、何度目の満月だろうな。
数えるのも嫌になった。

共に月を見ながら酒を飲んだり、語らったり。
月胡との思い出の多くに、月がある。
月明かりに照らされた月胡は、ひときわ美しい。

闇夜を照らす月は俺にとって月胡そのもの。
なくてはならない存在。
なのに何故、今隣に居ない?
月胡の居ない俺は…こんなにも不完全なのに。

膝丸「ご一緒しても?」

髭切「いいかな?」

俺の気持ちを知ってか知らずか、源氏の兄弟がやって来た。
月胡を求めて…か。

「好きにするといい。」

もう、同士のようなものだ。
月胡の不在を共に護ってくれている。
…俺だけでは、出来なかったやもしれぬ。
口にはせぬが、感謝している。

髭切「今日の月はなんだか、いつもより大きいね。」

「そうだなぁ。」

膝丸「それに、何故だか温かく感じる。」

確かに。
なんだか、懐かしい感じもするのだが…

他の男士も何かを感じているのか、ソワソワと落ち着かぬ様子だ。
不吉な訳ではないが、なんだろう。
この感覚は。

「…呑むか?」

膝丸「いただこう。」

髭切「僕も。」

そして、もう一つ。
月胡が愛用している、雪の結晶が彫られた硝子の盃にも。
細く綺麗な指がこれを持つのを見るのが好きだった。
甘口の酒を好んでいたな…
俺には少し、甘すぎるんだが。

今はあまり感じない。

月胡が居ないと…
酒や食べ物の味すら、よく分からなくなる。

こんなにも、俺の全てになっていたなんて。

膝丸「なあ、兄者。」

髭切「なぁに?」

膝丸「月の光が…こちらに伸びて来ていないか?」

髭切「何を言ってるの?
…あれ?確かに、そう見えるね。
ねえ、三日月。」

三日月「どれ…。」

言われて月を見上げると、確かに一筋の光が庭の真ん中辺りへと伸びて来ているように見える。

膝丸「敵襲か?」

髭切「いや…やましいものは入れないし…。」

「あの光は清浄なものに感じるな。」

その一筋の光はやがて集まり、人の形へと変わり始め…

「あれは…。」

思うより先に、身体が動いていた。
光の元へと。



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