第33章 それぞれの想い
ー髭切ー
弟は…
僕と違って、落ち着いている。
何故だろう。
同じだけ心配しているはずなのに。
僕だけが不安がっているようだ。
膝丸「どうかしたか?兄者。」
「…少し、面白く無いだけ。」
膝丸「何がだ?」
「…教えない。」
膝丸「…そうか。」
今のできっと、弟は気づいたのだろう。
僕の嫉妬や焦りに。
弟は…
修行に出て、月胡と離れた経験がある。
本丸では四日間だったけど、弟はどのくらいの時を過ごしたのか…
修行を経て弟は…
心身共に、成長していた。
月胡との絆もより、強固なものとなっていたようだし。
自分の出生を辿る旅。
それは、心身共に過酷なものだろう。
僕は…
まだ、月胡の側に居たい。
そんな幼い気持ちで、修行を先延ばしにしていた。
その結果が…
今回のことと繋がっていると思えて。
悔やんでも悔やみきれずにいる。
弟のように、こんな風にいられるのなら…
一時の寂しさなど耐えるべきだった。
いや…
弟と月胡を見ていてわかった。
ちっとも、寂しくなどないと。
物理的に会えないだけで、月胡は常に弟の事を。
弟は月胡の事を想っていた。
それが、お互いを奮い立たせていたんだ。
その二人に嫉妬した。
弟の無事を祈る月胡に。
その月胡に応えるべく邁進した弟に。
だから、僕は決めたよ。
月胡が無事に戻ってきたら、修行に出る。
月胡は、この件が片付いたら決断すると言っていた。
その結果がどうであれ、僕は行く。
月胡が僕を選んでくれても。
修行から帰ってから、月胡と添い遂げたい。
それが、僕の矜持だ。
膝丸「…決めたのだな、兄者。」
「…うん。」
嫉妬なんて、僕が抱くことはない感情だと思っていたのにね。
こんなにも強く、抱いている。
きっと、こんな僕を月胡は知らない。
ねぇ、月胡。
きっと、君と共に居ると…
まだまだ知らない僕が顔を出すと思うんだ。
月胡に全部、見せるから。
ね?
だから…
「早く帰っておいで。」
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