第32章 祈りと願い
ー月胡 sideー
ここは不思議な空間だ。
時の流れが早いのか、遅いのか。
今が昼なのか、夜なのか。
音のない空間なのに、落ち着いていられる。
空腹も感じない。
何もないのに、不安に感じない。
だから、深呼吸をして力が戻る事に集中できる。
本丸で待つみんなの為に。
まずは、力を取り戻さないと。
『本丸は、大丈夫。
だって、宗近が居るし。
みんなも、分かってくれている。』
翡翠が不測に備えてくれているだろうし、しばらくは私の力で保てるはずだ。
絶対に帰る。
あそこが私の居場所。
何よりも、大切なんだから。
ー月胡ー
愛しい人が…待っている。
親の顔なんて覚えていない私が、人を愛せるなんてね。
最初に愛をくれたのは、翡翠。
…認めたくない気持ちもあるけど、事実だ。
やり方はどうであれ、大切にしてくれた。
次は…
これまた認めたくない歪んだ愛だったけど、八咫。
私を手に入れる為に、堕ちた人。
その次は、翁。
あれこそ、無償の愛だったと思う。
血の繋がりもない、力だけの頭でっかちな娘を“私の孫だよ。”と言って全てを与えてくれた。
愛も、知識も、居場所も。
その翁に貰った居場所で、彼らに…
彼に出会った。
彼らも沢山の愛をくれる。
まだまだ、受け取った愛を返せていない。
一生かけても、返せないくらい大きな愛だ。
…だからこそ、帰らなければ。
帰って、彼らの…
彼の想いに応えるんだ。
みんなとずっと、一緒に居られるのだから。
みんなの顔を、一人ずつ思い浮かべる。
怒ったり、泣いたり、笑ったり。
みんな、忙しい。
きっと今は、何がなんでも普段通りでいようとしているかな。
宗近が仕切ってくれて、髭切膝丸がサポートしてくれてるだろう。
長谷部は大丈夫かな?
五虎退や小夜は泣いてないかな?
次郎と日本号と不動は禁酒してそう…
石切丸・青江・太郎は祈祷に精を出して。
光忠・歌仙は私の好物を一品は作っていそう。
乱は部屋を整えて…
薬研は調香して…私室に焚いてくれて…
鶴丸は…
『うっ…。』
ダメだ…涙が。
会いたいよ…
早く、みんなに触れたい。
本丸に…帰りたいっ!!
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