第28章 決意
ー膝丸ー
月胡の誕生日翌日。
本丸の結界に槍が刺さった。
時間遡行軍の手に堕ち、闇に飲まれる前に逃げ出した刀剣だった。
当然、月胡は保護し、本丸へと迎え入れたが…
時間遡行軍が着実に、月胡に迫っている。
言いようのない不安と焦り。
俺は今のままで月胡を護れるのか?
どこかで兄者に引け目を感じ、言い訳にしていたようにも思う。
過去を見つめ直し、己に自信をつけたい。
そんな焦りから、修行へ出たいと休みの月胡を押しかけた。
『行かないで…。』
その言葉に俺は、心底喜んだ。
一方通行ではない想いだと。
抱き締めて、口づけて。
このまま、時が止まってしまえばいいとさえ思った。
だが、無理な事。
ならば、やはり力をつけなければ。
月胡の隣に、堂々と立っていたい。
男としても、刀剣としても。
髭切「…先を越されたね。」
「兄者も修行に?」
髭切「そのつもりだった。
…今回は、譲るよ。」
「…あぁ。」
おそらく、俺が戻ったら兄者も出るだろう。
「月胡を頼む。」
髭切「頼まれなくたって、いつも見てるよ。」
「そうだったな。」
月胡に何かあれば、誰よりも先に駆けつけている兄者。
誰にも負けたくないのは、きっと同じだろう。
髭切「…しっかり、やってきなよ。」
膝丸「あぁ。」
翌日
朝の支度を終えると、月胡が部屋へやってきた。
『旅の道具、一式です。』
「ありがとう。」
これは…
全てに月胡の祈りとまじないがかけてある。
『どうか、無事に帰ってきてください。』
敬語の月胡が新鮮だ。
今は審神者としての務めを果たそうとしているのだな。
「わかった。」
旅の支度を整え、玄関へ行くと皆が見送りに来ていた。
太郎「…気をつけて。」
先に修行してきた太郎からの一言は重い。
「あぁ。」
『膝丸、手を。』
「はっ。」
月胡に言われて差し出すと、両手で掴み護るように霊力で包んでくれた。
『くれぐれも、気をつけて。』
泣きそうな顔をして…
後で、兄者に慰めてもらえ。
「では、行ってくる。」
振り返らず、一気に門をくぐった。
.