第22章 優先
髭切「ねぇ、月胡。
もう一曲、聞かせてくれない?」
膝丸「頼む。」
『…うん。』
静かに、穏やかに。
みんなが良い夢を見れるように…
ーothersー
その頃、伊達部屋では。
太鼓鐘を除く大人メンバーが、静かに酒を酌み交わしていた。
燭台切「良い音色だなぁ。」
鶴丸「主には驚かされるばかりだな。
こんな事も出来るとは。」
伽羅「……。」
普段から口数は決して多くないが、何か考えているのか自分の手元の盃を黙って見ている大倶利伽羅。
鶴丸「どうした?伽羅坊。」
そんな大倶利伽羅に気づいた鶴丸が問いかけた。
伽羅「…主は優しすぎる。」
燭台切「確かに優しいけど…。」
鶴丸「今日の事か?」
伽羅「あぁ。」
盃の酒を一気に煽り、静かに話し始めた。
伽羅「…常に他人の事ばかりで、自分を疎かにし過ぎる。
必要ないところで傷ついて…
もっと、自分の幸せ願っていいのではないか?」
馴れ合う気はない、そんな大倶利伽羅の言葉とは思えない、愛情溢れた想い。
彼もまた、月胡を大切に想っている一人。
鶴丸「そんな主だから、伽羅坊がそんな風に想うんだろうな。」
燭台切「主が僕達を想ってくれる分、僕達が主を想って幸せにしてあげようよ。
どんな選択もしやすいようにね。」
鶴丸も燭台切も、どれだけ月胡に救われたか分からない。
彼女の存在そのものが、この本丸にいる刀剣達の救いなのかも知れない。
伽羅「どんな選択…。」
それはおそらく、そう遠くないであろう。
鶴丸「…。」
燭台切「…。」
出来る事なら、自分が添い遂げる相手でありたい。
例え選ばれなくとも、想いは変わらぬが。
伽羅「…なら、全力で行くまで。」
鶴丸「そうだなぁ。」
燭台切「…だね。」
恨みっこなし、とでもいうように盃を合わせた三人。
伽羅(明日は主を思い切り、甘やかしてやろう)
月胡が奏でる優しい音色に包まれて、優しい想いを抱く大倶利伽羅。
そして、誰もが月胡の幸せを祈った夜だった。
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