第2章 審神者・始動
清らかな水を湛えたこの場所は、空気がピンと張り詰めているようだ。
本丸の中でも際立って霊力のあふれる場所。
『…すごい。』
私の力も満ちてくる。
『じゃ、行ってくる。』
…って!
『なんで宗近も白装束なの!?』
三日月「俺も鍛刀部屋に入るのだ、清めた方がよかろう?」
『ついてきてくれるの?』
三日月「当然。」
『…ありがとう、宗近。』
三日月「なに、俺が月胡と一緒にいたいだけだ。」
…そっちの方がなんだか恥ずかしい。
ていうか、そのつもりで用意してたんだ。
よく見たら、宗近も自分の着替えを入れただろう風呂敷を持っていた。
私が着替えている間に用意したのかな。
『できる男だ。』
三日月「だろう?」
…本当に隙のない。
宗近に惚れたら苦労しそうだな。
『じゃ、入ろうか。』
足先から少しずつ水温に慣らし、腰までつかる。
冷たいはずなのに、ちっとも寒くない。
不思議…
三日月「そろそろ上がるぞ。
寒さを感じずとも、さすがに冷えるだろう。」
『はい。』
水から上がり、宗近と背中合わせで身支度を整える。
衣摺れの音がなんだか、ドキドキしてしまう。
三日月「出来たか?」
『はい。じゃ、鍛刀部屋に行こう。』
三日月「あぁ。」
宗近は平気…みたいだな。
さすが、おじいちゃん。
こんな小娘にはなんの反応もないか。
…禊したのに、煩悩が。
刀剣は付喪神なんだ、人の俗な考えで測ってはいけないよな。
気持ちを切り替えて、鍛刀部屋へ入る。
三日月『資材は奥にまとめてある。
必要数をそこの職人に渡せばいい。」
「わかった。」
目の前に手をかざし、画面を開いて昨日のメールを確認する。
まずは、一振目の資材を小さな職人さんに渡した。
『まずは、これをお願いします。』
職人さん、“任せておけ!”というように胸をドンと叩いて作業を始めた。
もう一振も控えていた職人さんにお願いし、時間になったらまた来ると伝えて執務室に戻った。
三日月「さて、どうなるかな。」
『どうなるでしょうねぇ。』
完成したものに、私の力を込めれば顕現できる。
気にはなるが、時間までは他の仕事を片付けてしまおう。
午後は短刀が遊びに来るしね。
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