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第2章 一時帰還と美化された記憶


オルト君に寮まで送ってもらってテセウスの船の話をした数日後、目の前には自分によく似た肌の質感や関節までもが精巧に造られた絡繰人形が棺に横たわっている。それはまるで納棺された遺体のようで不思議な感情を抱いた。
「どうですかな?監督生氏そっくりでしょ」
作り物の自分と握手をすればほの温い温度と柔さが返ってくる。
「…そうですね。作ってくださり有り難うございます」
これで、一時帰還できる。そんな安堵が膨らんだ。

 星空の下を、オルト君に車椅子を押してもらいながら寮へと帰る。
「来週には一時帰還できるんだよね…?」
そうだよ、と答えれば彼の左胸の炎がゆらゆら揺れていた。
「一時でも帰って欲しくないって言ったら怒る?」
その言葉の真意を理解出来ずに、私は困って振り返る。悲しむように彼は瞼を少し伏せていた。
「貴女がその一時の間に何かの力でこっちに帰ってこられなくなったら兄さんが悲しむし、僕もたぶん…悲しい」
身を捩って彼の固いフェイスカバーに覆われた頬に手を添わせる。
「絶対に戻ってくるからそんな顔しないで」
「…約束だよ」
そう言えば彼は少し目を丸くしてから笑った。
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