第8章 上弦の陸
「不死川様…」
ざぁと全身の血の気が引くような感覚に陥る。
「おう、久し振りだなァ、白藤よォ」
指先がカタカタと震える。
「どうしたァ?久し振りにヤるかァ?」
不敵な笑顔を向ける彼……
不死川様は藤の花の屋敷に足しげく通うお得意様の一人だ。
ただ、私はこの方との夜伽が苦手である。
その最たる要因はこの方の性癖。
鬼は簡単には死なない。
だからなのか、この男は情事の際に頸を絞めたり、熱した蝋を足らしたり、とにかく嗜虐するのだ。
それと、私は彼の血に酔う。
気付いた頃には抱き潰された後なのだが…
というより、鬼が腰を痛めるって時点でおかしいのよ……
「どうしたァ?緊張してんのかァ?」
壁際に追い込まれ、腕を掴まれる。
「あ…」
正直、今すぐ逃げ出したい……