第57章 絶対君主には成れずとも$ 中巻
「国、民?」
「そうだ。この銀輪にお前の名前が書いてある。王宮の区画にある教会に行けば本当の名前も分かるはずだ。自分から擬煌珠になった訳じゃないだろう?」
「………もう、良いの?」
「?」
「そこに行けば……もう、擬煌珠をしなくても、良いの?」
冨岡が言葉に詰まっていると……
「やりたくないことは、しなくて良いんだよ。そりゃあ、まだまだ身分の格差もあるけど、自分で選んで良いんだよ」
善逸が擬煌珠に笑顔で食事を手渡す。
「…………食べて、良いの?」
「当たり前でしょ?これは君のだよ」
擬煌珠はぽろぽろと涙をこぼした。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
彼女は善逸から手渡された食事を前に泣いた。
この辺りで移動食としてよく食されているどこにでもあるサンドイッチを手にしながら彼女は泣いた。