第57章 絶対君主には成れずとも$ 中巻
翌朝。
襲撃された以上、ここに留まる訳にはいかない。
「朔、ここから出るぞ。いいか?」
「もちろん。義勇様となら、どこへでも」
身支度を済ませ、二人で女将の元へ。
「そうかい。訳ありとは思っていたけど……ま、困ったらいつでも来なよ。これ、あんたの給料だ」
「良いのか?」
「この辺は下町だからね、現金があったほうがいい。ただ、すりも多いから気をつけなよ?」
「あぁ。分かった、助かる」
「義勇さん……」
「……百合」
「あの……これ、ありがとうございました。義勇さん、私……」
昨日百合に着せた外套を手渡され、それを受けとる。
「済まなかった。……また、来てもいいか?」
「はい、待っています。貴方を。どうか、ご武運を……」
うっすらと涙を目尻に浮かべる百合に手を振って、俺と朔は紫煌楼をあとにした。