第57章 絶対君主には成れずとも$ 中巻
「菫さんのお店は水晶堂の裏手の紫煌楼(しこうろう)ですよ」
今は要らない情報だ。
「どういったお店なんですか?」
朔にいたっては、どういう類いの店かすら分かっていないだろう。
「お姉さん、お上りさんなの?」
お上り?
「あぁ、昨日王都に連れてきたばかりなんだ」
混乱している朔の代わりに冨岡が応える。
「そうなんですね、どちらから?」
「……東の、辺境から」
……無理が有るか?
「ちょっと、菫!いつまで油売ってんだい?」
「あ!菖蒲(あやめ)姉さん!」
菖蒲と呼ばれた女性はなるほど確かに娼婦然としていた。
ふくよかな胸にくびれた腰。
ん?隣の男は誰だ?
「あ、伊黒さん!」
「帰って来ないと思えば、お前たち二人揃って何をしている…」