第55章 スルタン企画 絶対君主には成れずとも$ 上巻
あれはまだ幼い頃。
キュルキュルー。
「はぁ…」
冨岡は宮殿で蹲(うずくま)る少女を見つけた。
ここは礼拝堂でも殿下の執務室とも違う、ただの廊下だ。
頭を垂れる理由がない。
「腹が減ったのか?」
声をかけたのはただの気紛れだった。
俯(うつむ)いていた少女は顔を上げ、まだ少し赤さの残る頬をこちらに見せ、力無く笑った。
「ごめんなさい、せっかく宮女になったのに…」
「ん?お前先月入ったばかりの……白藤だな?」
「王子様、覚えて頂いてたのですか?」
「使用人の顔を覚えるのは当たり前だろう?」
「私……不死川様の所に…宮仕えになったのですが、ご満足頂けないのか、あのお方には怒鳴られてばかりで……」
白藤の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。