第51章 里帰り$
「俺は未だに名字で呼ばれていて、何故師範を…」
「冨岡さん、顔を見せて頂いても?」
「見るな…」
胸の中がごちゃごちゃしていて。
いつもの凪のような平静さを保っていられない。
冨岡の横顔が朱に染まっている。
度々、不安そうにしている顔は見てきたが、こんな冨岡は初めて見る。
「すみません、気付かなくて。その…笑わないで聞いて下さいますか?」
「?」
笑う?
「昔から呼べないんです。左近次様を名字で呼ぼうとすると舌を噛んでしまって…どうしても、鱗だゃき様になってしまうので…///」
「………」
「あの、冨岡さん?」
「ふっ…」
「あ、今笑わないでって言ったじゃないですか…」
「すまん…」
「もぅ。…ようやく、こちらを向いて下さいましたね」
冨岡さんの深みのある青い瞳が私を写す。
ちゅっ、と自分から冨岡の唇に口付けをする。
「不安にさせてしまってすみませんでした。でも、ちょっとだけ嬉しいです。冨岡さんの焼きもち」
焼きもち?とは確か嫉妬のことで…
嫉妬?
では俺は今まで師範に嫉妬していたのか?
「白藤…」
「何ですか?」