第6章 藤に詩へば$(無惨裏)
母もそうだった。
私の看病の無理がたたって倒れ、そのまま。
父は、母が身罷(みまか)られてから、めっきり顔を見せなくなった。
私の先行きが読めないからだろう。
このままでは出世が望めないからだろう。
もうここ数年、父とは顔を合わせて居ない。
だが、こんな時。
誰かを頼るのであれば……
父に使いを出そうと、舞山が踵を返した時、白藤が彼の着物の裾を掴んだ。
「お兄様、私…変なんです。体が熱くてしかたがないのです」
触れただけで震える体に上気した頬。
聞いたことがある。
女人に逢瀬を重ねる時に焚き染めると、ほろ酔う香があることを。
人はそれを媚薬と呼ぶ。
白藤の症状は聞き及んでいた媚薬の効果そのもの。
屋敷では香は焚いていないし、思い当たる節もない。
では、誰かから飲まされたのか。
媚薬には液体や粉末もあると聞く。
私のモノに手を出すとはいい度胸だ。
誰であろうと赦しはしない。
「お兄様…」
「可哀想に。今、楽にしてやろう」