第44章 薄氷$
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「はぁ…」
嫌な夢…
私の記憶は、大事な場所が欠落している。
それが怖い。
隣に眠る冨岡の手に触れる。
いつか…この人のことまで、忘れてしまうかもしれない……
「嫌…」
「ん……どうした…?」
「すみません、起こしてしまって…」
「いや、まだ顔色が悪いな…」
冨岡が白藤の髪を手櫛でとかしてくれる。
「すみません……」
「謝らなくていい、抱え込むな。何を吐き出しても構わない。白藤が笑えるようになるまで、俺は傍に居る」
「………冨岡さん」
彼に抱きしめられると、安心する。
励まされると、心が軽くなる。
それと胸の奥が、きゅっと締め付けられるような想い。
これを恋と言わずして、なんと呼ぼうか。