第34章 今夜はお気の済むまま$ 冨岡夢
「………私も冨岡さんに会えて良かったです」
「どうした?」
思いもよらない言葉に冨岡が首を傾げる。
「聞いても、良いですか?」
「何だ?」
「どうして、私と一緒に暮らそうと思ったんですか?」
こんな面倒な鬼である私を傍に置くなんて。
「お前と一緒に居ると心が安らぐ。それに、またお前が作る料理が食べたい」
「料理……それって、鮭大根ですか?」
ぱぁっと明るくなる冨岡を見て白藤の顔も綻んだ。
「琴も聞きたい」
「ああ、遊郭の時に弾いた曲ですか?」
「他にも聞いてみたい」
「いざとなると…ああ、『待宵月』なら…」
運び込まれているのだから、久しぶりに弾いてみるのも良いかもしれない。
爪弾いてみれば、澄んだ音が響く。
シャララン、シャララン。
目を閉じ、冨岡は白藤が奏でる音に集中する。
「………」
シャン。
「冨岡さん、貴方は居なくならないでくれますか?」
「……どういう意味だ?」