第32章 しおり100拍手200御礼 今夜はお気の済むまま$
「実は以前に一人だけ、懇意にしていた方がいたんです。その方は始まりの呼吸の剣士の兄君で月の呼吸と呼ばれる呼吸法を編み出した方でした…」
師である鱗滝から聞いたことがある。
日の呼吸と呼ばれる呼吸法を編み出した剣士のことだ。
兄がいたのか。
月の呼吸とは…聞いたことがない。
「冨岡さんのように無口な方で、……でも、誰よりも心根の優しい方でした。私の境遇にも心を砕いて頂いて…でも、ある時を境に帰って来なくなったんです。遺体も見当たらず…行方知れずになってから、もう四百年ほど過ぎました。普通の人間ではとうに息絶えているでしょう。でも……すみません、忘れられないんです……」
「もういい」
冨岡に抱き締められる。
「俺は昔お前に何があったか知らないが、今のお前を形作る為に必要だったことなら、俺は受け入れようと思う」