第17章 馳(は)せる
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落ち着かない。
縁壱様、巌勝様…
私を抱き締めてくれる大きな手を今でも覚えている。
継国巌勝様、当時懇意にしていた始まりの呼吸の剣士縁壱様の兄君。
あの当時は本当にできることが少なくて。
そう言えば、巌勝様が居なくなる前にも着物を仕立て直した事があった。
今となっては遠い昔。
でも私だけは知っている。
痣者が死んでいった過去。
かの人はいつも一人だった。
「……巌勝…様」
こういう時、泣けば良いのだろう。
でも、私に泣く価値はない。
あの日、あの人の側に居られなかった私には。