第74章 春待ちて、芽吹く想い
「ギユウ シレイジャ……」
「指令?珍しいな……」
最終戦後、鎹鴉の大半は山に返されたが、柱達等一部の鴉たちは、自ら望んで元の主たちの元にいる。
寛三郎はあの戦いの後から眠る時間が増えてきているような気がする。
義勇の元に来る前からずっと寛三郎は鎹鴉を続けていたらしいから、他の鴉たちよりもずっと長生きで、元の主たちを何人も見送ってきたのだろう。
隊士たちの死は家族だけでなく、この小さな体の鴉たちも背負っているのである。
「ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
寛三郎から文を受け取って、義勇は彼の背を優しく撫でてやる。
「ギユウ シヌナ…… ゲンキ……」
「大丈夫だ」
この老鴉とはいつまで一緒に居られるだろう。
白藤が居なくなって、寛三郎との暮らしに戻っただけなのに、義勇の心は何処か空虚だった。
「本邸への呼び出し、か……」
とうとう、お役御免を仰せつかるかもしれない。
まあ、それもそうか。
鬼の居ない平和な世界になった今、鬼殺隊どころか柱という役職自体意味をなさない。
俺は、本当に独りになるのかもしれない……
彼女が居なくなってから、孤独が纏わりついて離れない。
今まで平気だった暮らしですら色褪せて見えるほどだ。
彼女は本当の意味で俺にとっての『光』だった。