第74章 春待ちて、芽吹く想い
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「輝利哉様、冨岡様がお見えです」
くいなが声をかけると、当主となった輝利哉が奥から出てきた。
「よく来てくれたね」
穏やかな話し方はどことなく父君である耀哉様に似ている。
「お久しぶりです、輝利哉様」
冨岡が頭を下げると輝利哉は畏まらずにと声をかける。
とはいえ、もはや慣例となっている所作を変えるのは至難の業なので、輝利哉も苦笑いを浮かべるのである。
「今日は君に受け取って欲しいものがある」
「受け取る?」
はてと首を傾げる冨岡に輝利哉は風呂敷に包んだ物を手渡す。
額縁か何かだろうか……
「開けてみてくれるかい?」
輝利哉に促されて包みを開くと、額縁に納められた絵が現れた。
穏やかな笑みを浮かべた白藤の姿。