第76章 違えし縁
「ならば私は『橘』と名乗ろう」
酔狂とも呼べるやり取りだが、この当時、名前は一番身近な呪であった。
名前が分かれば、陰陽師に頼んで、相手を呪い殺すことも出来た時代である。
名を知られたくない場合は偽名を名乗る。
それが自衛に繋がっていたのである。
「それでは、橘の君。貴方様の専属の薬師になっても宜しいでしょうか?」
「なるほど、それが本題か……良いだろう。いずれ薬師は探そうと思っていとところだ」
しかし、『不老不死』に『不変』か。
死に際に立っている私には縁遠い言葉であるが、口にした言の葉は力を得ると言う。
ならば『橘』は私の理想とするものだ。