第76章 違えし縁
いつからか、追い求めて『生』に縋ろうとした。
彼女の隣に在りたいと願うようになってからは特に。
来年も二人で藤の花を見上げられるか分からない。
恐らく私は彼女を置いて、彼岸に渡る。
だが、心がそれを受け入れられない。
『生きたい』
舞山は名も知らぬ薬師を雇ったのも、その願いを叶える為だ。
残された日々を可能な限り、長く。
彼女の隣にーー
二人で出掛けたい場所がある。
同じものを食べて、気兼ねなく笑って。
時間を気にせず、のんびりとしたそんな何気ない幸せを。
「私の願いを叶える為に手を貸してくれるか?」
「ええ、勿論。今日、この日より、橘の君の病を治すべく、この身を粉にして尽力致します」
その日を境に、舞山が薬師を屋敷に招く様になる。
薬師の薬と一人の男の思惑に翻弄されることを、この時の舞山はまだ知らない。
ー了ー