第76章 違えし縁
「私はしがない薬師ですが、何かのお役に立てるやもしれません。一度庵(いおり)にご案内致します」
これが、舞山と薬師の出会いであった。
薬師に手を借り、庵に辿り着いた舞山は円座に腰を下ろして、壁に寄りかかった。
「随分とお疲れのご様子ですね」
薬師がとりあえずと水を運んでくれたので、舞山は一度匂いを嗅いでから、それに口をつけた。
「ただの水ですよ」
「酒かと思ってな。下戸ゆえに警戒してしまい、申し訳なかった」
見ず知らぬ者に薬を盛られたなど、おいそれと話す事など出来やしない。
舞山は座したまま一度目を閉じ、深い息を吐いた。
薬師は舞山の様子をつぶさに観察していた。
狩衣を纏っているとはいえ、所作を見るからに、舞山が平民とは思えなかった薬師はこう切り出した。
「して、貴方様はこちらで何をされていたのですか?」
「特には何も。宴席を抜け、知り合いに会いに来た。それだけだ……」
「さて。それはいかがでございましょうか?」
「何が言いたい?」
「貴方様の髪や体は汚れているのに、服は汚れた様子が無い。何処かでお召変えされたのでしょう?」