第76章 違えし縁
その顔を思い出し、舞山は震えた。
嫌だ。
昨夜のようなことがまた起こるなど、おぞましいにも程がある。
とにかくここから立ち去らねば……
人の声が周囲からしないということは、ここは恐らく右京で間違いないだろう。
内裏のある左京と違い、賑わいも物流も無い。
宛もなく歩いた舞山が辿り着いたのは、一軒のあばら家。
つんと鼻に付くような臭いがした。
廃れた家屋。
あちこちに穴が開き、鼠が出入りしている。
新しいように見える家具が幾つかあるところを見ると、どうやら誰かが最近まで使っていたのだろう。
部屋に衣装があれば、それに着替えたい。
舞山はあばら家の中を歩き回った。
運良く籠を見つけた舞山は中から狩衣を取り出す。
貴族の装いからは程遠いが、無いよりはましである。