第76章 違えし縁
「道摩法師ー、起床の時刻ですよー。あと、依頼が来ております、ご対応お願いします」
直丁が書簡子の扉を開けると巻物やら冊子やらに半ば埋もれている無精髭の男を見つけた。
かろうじて烏帽子が乗っているだけという様なざんばらな髪を一括りにしただけの、文字通り没落貴族の様な男を目の前にした舞山は、えも言われぬ心境になった。
人の言葉を真に受けてはいけないという先代からの言いつけ通り、舞山は言葉の裏を考えるようにしていたのだが、ことこの男に関してならば、額面通りの意味でまかり通る気がする。
「依頼ねぇ………」
気だるそうに欠伸(あくび)をしながら、蘆屋道満は立ち上がった。
身の丈は舞山よりも一寸ほど高い程度だろうか。
それでは、これにてと、直丁がそそくさと退出してしまったので、舞山は蘆屋道満に直接依頼するしかなくなったのである。
「して、依頼とは?」
「とある薬師を探して頂きたい」