第76章 違えし縁
珠世は半身が無惨に吸収されつつある危うい状態にも関わらず、毅然としている。
「堕ちていない、だと?」
「そうだ。私はお前程人を喰わずとも、少量の血さえあれば、生き長らえる。お前の様に無駄な殺生はしない!!」
「……るさい……弱い者が淘汰(とうた)されるのは、世の理である筈だ!」
無惨が声を荒らげる。
ベベン!!
琵琶の音と共に、襖が現れる。
そこから悠然と出てきた鳴女が、無惨の元へ歩き出す。
「良くぞ、言った。それでこそ、私の作りし、鬼の始祖だ」
「鳴女?貴様、何をしてい、る?」
「まだ思い出せぬか……?私の事を……」
クツクツと嗤いながら、鳴女が姿を変える。
無惨にどこか似た風貌の、黒い長髪の青年へと変貌を遂げた。
漆黒の髪に、墨染の衣。
内裏に仇なす鴉と揶揄された者の名を、無惨だけではなく、白藤も思い出した。
「『蘆屋道満』」
双方の口から出た名は稀代の陰陽師、安倍晴明と肩を並べた実力者である男のものだった。