第72章 向かう白、揺蕩う藤色
「竈門少年。無限列車の日のことを覚えているか」
「はい……」
忘れられる筈がない。
あの日、俺たちを庇いながら戦って、煉獄さんは死にかけたのだ。
後で聞いた話だが、白藤さんが来てくれたから助かったのだと……
「俺は、あの日……死ぬのだと思って、最後の最後で生きることを諦めた……藤姫殿のお陰で助かったのは嬉しかったが、それと同時に、生かされた事に非道く戸惑った……」
分かっている。
藤姫が治療できるのは怪我だけで病は対象外。
御館様のように、鬼による後遺症によるものならば進行を遅らせることは可能であること。
どうしても、母が生き返ることは出来ない。
分かっていても、母ではなく、自分が生かされた事が煉獄にとっての心の蟠(わだかま)りとなってしまっていた。