第72章 向かう白、揺蕩う藤色
「槇寿郎……後は……頼、だ…よ……」
眠りに落ちるように耀哉様はこの世を去っていかれた。
こんなどうしようもない俺に、何を託されるのか……
妻が亡くなり、自らの呼吸の剣術の鍛錬も投げ出して酒に逃げた俺に。
もはやただの不抜けに成り果てた今の俺に。
「よォ、旦那」
音もなく、俺の背後を取れる奴はそう居ない。
「まったく、お前は気の抜けない輩だよ。……宇髄天元、一つ頼まれてくれるか」
「あぁ、構わねぇよ。貸しは息子に払ってもらうからな」
刀を握り、深く息を吸う。
戦いに身を置くのは、果たしていつぶりだろうか。
「そうか……いや、これに関しては俺がしっかり片を付ける……」
「そうかい。そりゃあ、頼もしいな」
一戦から退いた筈の男の割には迫力がある。
槇寿郎はまさしく、元柱の顔をしていた。