第70章 咲くは朱なれど散るは白
「……ががァ……」
堕ちた。
蘆屋道満には分るのだ。
人間は脆い。
体はどんなに鍛えることができても、心を鍛えることは難しいからだ。
術士はその弱みを知っている。
その人間の欲するものを見分ける術を。
その隙間に忍び込む狡猾さを。
暗い瞳に一層黒い闇を纏わせて、蘆屋道満はクツクツと嘲笑する。
「炭、治郎……?」
さすがに様子がおかしいと気付いたのか、カナヲが怪訝な顔をする。
「離れなさい、カナヲ!!」
胡蝶の呼びかけと冨岡が炭治郎の刀を受け流すのはほぼ同時。
炭治郎の動きは水の呼吸を軸としている。
そのため、同門である冨岡が動き出しを予見出来たのだ。