第74章 誰がために…
ほんの少しだけ彼の耳が赤いのは気の所為だろうか。
だが、そのやり取りも直ぐにご破算になる。
「よくも……よくもよくもよくも!!」
人と言うよりも怨霊かなにかの類(たぐい)のような雄叫(おたけ)びをあげながら、蘆屋道満は血の滴(したた)る右腕を使い、指を揃えて刀印を作る。
「ナウマクサンマンダ……」
道満が呪文を唱え始めると、宇髄が双刀を操り、詠唱の邪魔に入る。
「良くは知らねぇが!昔の術師の呪文は言わせなくすりゃこっちのもんだ!!」
彼の言うことは正しい。
殊更(ことさら)、陰陽師という術師は唱える言葉にすら力を与える『言霊(ことだま)』という特殊な力を有している。
力のある者が生き残るとされたあの時代で、その名を轟かせた二人の術師。
その内、一人が今目の前にいる播磨(はりま)の蘆屋道満。
そうして、もう1人が十二神将を従えたとされる安倍晴明……
この場に彼がいれば立場的にもこちらが有利であったはず……