第74章 誰がために…

「まだお休みになられないのですか？」

「お前こそ、先に休んで良いのだぞ？」

彼女は屋敷付きの女房で、言うなれば使用人だ。

この屋敷の主である私の世話を焼くのが彼女の仕事であり、存在意義である。

それは分かっている。

頭では……

年頃になってきた彼女のことが気にかかってしまうのだ。

器量のいい彼女は女房とはいえ働き者で明るくて、私にとっては無くてはならない存在だ。

嫁に行ってもおかしくない年頃になった今でも自分に仕えてくれる彼女が愛おしい。

許されるのであれば、その肌に触れたいと。

恋慕の情を抱いたこともあった。

だがその感情を私は彼女に伝える気はない。

叶わないと知っているのだ。