第74章 誰がために…
「いい加減、飽いたな……」
「誰だ、貴様、は……!?」
不意打ちを喰らい、愈史郎が鳴女から手を離してしまう。
今の攻撃はどこから。
「鬼舞辻無惨。いつになったらしまいになるのだ?鬼の王の座にある貴様が人間を屠(ほふ)るなど容易いことであろう?」
「鳴女?」
「いい加減、琵琶の女に化けるのも飽いたところでな。無惨、其方(そなた)と同じ顔にしてみたが、存外悪い気はしないな」
「無惨が二人?」
「違います、あの男は……」
「白藤?」
「彼奴(あやつ)は蘆屋道満。私から全てを奪った男です……」
「これは、驚いた。其方。まだ生きていたのか、白藤……」
やおら扇を開き、口元を隠しながら男はクツクツと笑う。
「無惨に白藤。実に久しいな。私の顔を忘れずにいたとは。いやはや恐れ入ったぞ」