第74章 誰がために…
輝利哉が思案する一方で、白藤もまた思考の波に飲まれていた。
その声音に、聞き覚えがあったからだ。
故に、体が金縛りにあったが如く、身動きが出来なくなってしまった。
胸の奥がツキりと痛む。
それと同時に、溢れ出してきた。
忘れていた記憶と過去。
耀哉の力が弱まり、白藤の縛りが緩んだことも影響している。
巌勝の時と同じだ。
想いを寄せていた。
あの頃に帰りたいと、希(こいねが)い、瞼(まぶた)を閉じて眠りについた夜を。
別れが悲しくて、苦しくて……
それから、ぽっかりと中身の抜けたようになった自身のことを。
ただ、その記憶が正しいのか、判断すべき材料が彼女には足りない気がしてならなかったのだ。