第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
「ん……///」
瞼がほんの少し、震えるだけで。
舞山の心音が跳ねる。
ドクン、ドクンと脈打つように。
白藤の白くなった髪に触れる。
ソッと触れた指先から伝わるしなやかな質感。
儚げに咲く白い蓮華のように、艶やかに薫る。
私は華に誘われる羽虫のようだ。
少しでも汗を拭ってやろうと、手拭いを手にし、白藤の首筋に触れた。
肌に手拭いが触れたためか、彼女が身じろいだ。
乱れた着物から彼女の白い肌が顔を出す。
ばくばくと煩く鳴り響く心音を感じながら、舞山は彼女に手を伸ばす。
そこからは、よく憶えていない。
記憶のない間に何をしたのかは、次に眼を覚ました折に自身と彼女が裸で同衾(どうきん)していた事実を認識してからだ。
二人で共に寝床にしていた布団には、彼女のものと思われる少量の赤黒い穢れと、己が吐き出したであろう、乾いた白濁。