第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
薬師の体が人体と呼べぬほど、バラバラに散らばり、もはや肉片としか見えぬようになった頃。
ふと我に返った舞山は辺りの惨状と自身の格好を見て気が狂れるほど動揺した。
動悸に震え、人を殺めてしまったことへの恐怖と焦燥。
舞山は震えの残る体で再び歩き出す。
白藤を探す。
彼女が見つかればそれでいい。
もう一度、会いたい。
会って、彼女を抱き締めたい。
ただ、それだけでいい。
薬師の屋敷を歩き回っていたら、知らぬ内に舞山は竹林にいた。
まるで狐に摘まれたかのような奇妙な感覚。
だが、それでも構わない。
舞山は構わず歩き続ける。
彼の足跡に拭いきれない赤黒い染み。
薬師の屋敷から持ち出した斧を片手に、道行く通行人を舞山は喰らった。
彼にとって、牛車で移動する貴族は格好の獲物だった。
牛を操る雑色(ぞうしき)を昏倒させて、牛車の前にうら若き姫を装い、舞山が現われる。
皆、舞山に驚くが、話を聞いてくれと言えば大体の貴族は耳を傾けてくれた。
肉を喰らい、血を啜(すす)り、舞山はどんどん人の道を外れていく。