第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
「人ならぬ者は貴様だ、外道が……」
視界の隅に掠めた刃。
薪割りの斧だ。
こちらの方が確実に奴を仕留められる。
舞山は包丁を投げ捨て、斧を手に取る。
普段なら引き摺らなければ持ち上げられない斧をその時は易々と片腕で持ち上げられた。
だが、そんな些末(さまつ)な変化など、気にも留めなかった。
遂に舞山は薬師の首を斧で斬り落とした。
薬師の首からは勢いよく血飛沫が飛び散り、辺りを朱に染めた。
飛び散った血液が舞山の口許にかかる。
普段なら汚らしいと懐紙で拭き取るはずだが、この時の舞山は舌先を出してその血を舐めたのだ。
そうして、その味を知った。
鉄の味しかしないこの生暖かい血が。
この瞬間から舞山にとっての至高の味となった。
舞山は我を忘れ、ただひたすら、獣のように、薬師の体を食い荒らした。