第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
ブン、ブン。
無惨は包丁を振り回した。
ヒュ、か。
薬師の体を斬りつけ、右手の小指を斬り落とした。
悲鳴が上がり、指から血が滴り出す。
それを見て無惨の興奮が高まっていく。
薬師自体が自分にとっての捕食対象のように。
まるで目の前に誂えられた膳のようだ。
今、飢えている私にとって、この者は格好の餌だ。
この者の血を、肉を、貪って、全てを終わらせよう。
この者は私から白藤を奪った罪深き者なのだから。
薬師は襲いかかってくる舞山に恐怖する。
先程から何を言っているのだ。
白藤が何処に居るかなんて知らない。
ここには居ないし、事情も分からない。
血走った眼と、先程からとがり始めた爪。
人とは思えぬ変化に。
「化け、物……妖か?鬼か?」
化け物?
この私が?