第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
舞山は薬師の作業机に置いてあった包丁を手にした。
結局、私の体を治すこともできない。
この薬師も、今までの出来の悪いやぶ医者たちと同じだ。
皆、口を揃えて言うのは、二十歳を待たずに死ぬということ。
ならばいっそ私の手で全てを壊す。
何一つなし得ないまま死ぬのは嫌だ。
せめて、最後に……
白藤に。
彼女に伝えたい事がある。
美しくなった自慢の女房に。
叶わぬ想いであったとしても。
私が彼女を恋い慕っているという事を。
まだ、言えていない。
舞山は自らの想いを、彼女に伝えたかった。
だからこそ………
白藤に会いたい。
舞山の想いはそれだけだった。