第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
「ゆくゆくはそうなりたいと思っていた頃もありましたが……今は何も……」
「そう、ですか。……深夜に賊が入り込んだ可能性はありませんか?」
深夜は私が起きている。
白藤が襲われるはずが無い。
「ありません」
けれども、もし本当に賊が彼女を………
そう考えた矢先だ。
舞山の脳裏の片隅に。
そうだ。
「私の元に頻繁に訪れる薬師がおります」
「薬師?」
「私の薬を処方に来ているのですが、よもや彼奴が……」
「詳しく聞かせて頂きましょうか」
舞山は薬師のことを道満に伝えた。
薬師が蘭学者であること。
西洋朝顔を用いて薬を研究していること。
舞山は薬師の年齢、人相、あらゆる事を事細かに説明した。
道満は口元を閉じた扇で隠しながら静かに頷く。