第73章 弦音に捕らわれぬ事勿れ
黒髪に均整のとれた顔つき。
噂に聞く彼の人相とは違う印象を受けた。
噂ではざんばらに伸ばした髪に無精髭を生やした男と聞いていたのに。
「産屋敷様。こちらが道摩法師です」
「あぁ、ありがとう」
「下がっていいぞ。藤原」
「はい、失礼致します」
陰陽生は一つお辞儀をしてその場を辞した。
「して、産屋敷殿。私用とはどのような?それとも場所を移した方が宜しいか?」
「このままで構いません。道摩法師様は医学にもお詳しいと聞きまして、私の屋敷の女房が急に体調を崩しがちになり、一度診て欲しいのです」
「ほう。その女房は流行病のように咳は?」
「ありません。具合が悪い時は起き上がることも出来ず、酷い時には口にしたものまで吐いてしまいます」
「ご懐妊の兆しと似ていますが……その女房にお相手は?」
「おりません。屋敷には私と女房しかいません」
「その女房が産屋敷殿のお手つきではないのですね?」
道満は一番の懸念を聞いた。